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4 とくに日本手話について

 日本手話が本講座で開講されていることについて述べておかなければならない重要な点は、本講座で教授する他の諸言語と同様、日本手話が日本のろう者のコミュニティで用いられている個別言語だということです。

 日本手話は、日本のろうコミュニティで自然に発生した視覚言語(目で見る言語)です。手話には文字がないのでその歴史を遡ることは難しいのですが、1878年の京都盲亞院の設立時に手話が共通言語として使われていたことを示す記録があることから、少なくとも140年以上の歴史がある言語と考えられています。近年の手話類型論の研究成果に基づき、韓国手話・台湾手話が「日本手話系の言語」に含まれるようになりました(相良啓子2024『日本手話の歴史的研究』第1章参照)。

 日本手話を含む「目で見る言語」の特徴には以下のようなものがあります。

 ・手の表現に加えて、頭・顔・上半身の動きが文法的な情報を伝達する
  (その結果、短い文で多くの情報を伝達できる)
 ・空間の使い方に規則がある
 ・ジェスチャーに似ている表現にも聴者のジェスチャーよりも複雑な規則がある
 ・同じ地域の音声言語とは異なる語順や文法規則が多く見られる
 ・音声を時間軸に沿って並べて文を作る言語とは異なり、情報がレイヤー(層)を成して
  重なり合うような表現も頻繁に使われる


 日本手話は人工的に考案されたものではなく、ろう者のコミュニティで自然に生じたものです。地方の方言や若者言葉に該当するものもたくさんあります。日本手話の言語環境が整った家庭に生まれた子どもは(ろう者聴者に関わらず)手話を母語として身につけることができます。手話も音声言語同様、習得に適した年齢があることはアメリカ手話話者の研究などでも明らかになっています。

 日本で「手話」と呼ばれているものには、日本手話のほかに「日本語対応手話(手話アシスト日本語)」があります。これは、日本語の文に人工的に手話表現を補助的につけることで日本語を多少なりとも「可視化」しようとするコミュニケーション手段です。この方法では日本語を声で話しながら表すことができますので、日本語を第一言語とする使用者には学びやすく使いやすい方法です。しかしこれはあくまでも「補助つきの日本語」であり、ろう者が使う日本手話の代わりにはなり得ません。また日本語文のすべての表現が可視化されることはほとんどありませんので、日本手話を用いるろう者の多くはこの方法よりも日本語字幕を好む人も多いです。

 日本語対応手話(手話アシスト日本語)と日本手話の違いを動画で見たい方は、以下の解説つき動画を参照してください。
 ※外部サイトに移動します。
  リンク先の動画についてのお問合せは、Youtubeチャンネル運営団体にお願いいたします。

 https://youtu.be/hjORtrxsO14

 日本手話は「目で見る文化」である「ろう文化」と深くつながった言語です。三田での日本手話クラスでは、日本手話の語彙や文法の習得にとどまらず「目で見る文化を尊重する態度」の指導もあります。多数派である聴者には馴染みのない異文化を学ぶことになりますので、日本手話科目の履修にあたってはさまざまなルールがあります。なぜそのようなルールが必要なのか、ぜひ講師に筆談・手話など「目で見る方法」で質問してみてください。日本手話を学ぶことで、皆さんがこれまで「当たり前」と思っていたいろいろなことが、必ずしも「当たり前ではない」ことに気づく機会がたくさんあると思います。

*日本手話科目につきましては、履修申請の前にこちらを必ず熟読してください。


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