2016年度公開講座の開催

2016年7月13日

2016年度言語文化研究所公開講座を下記の通り開催いたしました。

テーマ:東南アジアの多民族・多言語社会-ベトナム・シンガポール・インドネシア-

東南アジア諸国に共通して見られる多民族・多言語状況は、それぞれの国において多様性に富んだ文化を育むと同時に、国民統合という課題への取り組みを余儀なくさせる要因にもなっています。本講座では、ベトナム、シンガポール、インドネシアの3か国について、民族と言語の状況、国家語と民族語との関係、言語政策・言語教育政策、今後の展望を中心的話題として、現地調査経験の豊富な専門家がわかりやすく解説します。


■ 第1回 10月8日(土) 14時00分~16時00分 
講師:伊藤 正子氏(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科准教授)
演題:多民族国家ベトナムと少数民族語政策

ベトナムには、国家が公認した54の民族(人口の約86%を占めるキン(ベト)人と53の少数民族)がいる。身分証明書には民族名が書かれており、何民族かはベトナム人のアイデンティティの重要な一部である。ベトナムは国民を民族に分類してこそ、それぞれに的確な政策が実施できると考えてきた。言語政策においても、国家語のベトナム語と並んで、少数民族は自身の言語と文字を使う権利があると規定し、1960年代には、少数民族語の正書法制定に熱心に取り組んだ。本講演では、中越国境地域に居住するタイー人・ヌン人と、モン人をとりあげ、キン人との関係性により、少数民族語教育の目的が、ドイモイ開始後民族によって異なってきた様相を明らかにする。


■ 第2回 10月15日(土) 14時00分~16時00分
講師:奥村 みさ氏(中京大学国際英語学部教授)
演題:シンガポールにおける二言語教育政策による文化変容と国民文化のゆくえ

「龍に翼、獅子に鰭、虎に角」という言葉がある。強いものがさらに強くなる、という諺である。シンガポールの象徴マーライオンはまさしく獅子に鰭。いまや一人あたりのGDPは日本を抜いたシンガポール。二言語教育政策は果たして、シンガポールという獅子を国家としてより力強く発展させ、「陸と海の王者」たらしめる強力な鰭となりうるのか。
本講演では、独立直後から実施されてきた二言語教育政策の50年間の成果と問題点を具体的な例を挙げながら論じる。特に21世紀に入ってから政府は「良い英語を話そう運動(Speak Good English Movement)」を展開し、SNSの急速な普及などとの相乗効果で若者の間では英語使用が拡大しており、国民文化にも大きな変化が生じてきた。最後に、多民族・多言語国家シンガポールの今後の言語状況と文化・社会のゆくえについても言及したい。本講演が将来の日本の英語教育を考える一つの契機ともなれば幸いである。


■ 第3回 10月22日(土) 14時00分~16時00分
講師:内海 敦子氏(明星大学人文学部准教授)
演題:インドネシアにおける国家語と民族語-700の言語が息づく島々の多言語状況-

インドネシアは5つの大きな島と無数の島々(1万3,000以上)からなり、2億3千万人を超える人々が暮らしている。民族や言語の数も大変多く、720程度と報告されている(SIL International)。本講演では、インドネシアにおける「民族の言語」と「国家の言葉であるインドネシア語」の関係を、ジャワやスラウェシなどいくつかの地域を例に挙げて解説する。
民族語はその使用実態によっていくつかの種類に分けられる。ある特定の大民族と結びつき存在感を持つもの、地域共通語としていくつかの民族によって用いられるもの、話者の少なさと他民族との接触ゆえに使われなくなっていくもの、などである。ダイナミックな変化を続ける民族語の姿を、国家語たるインドネシア語との比較から浮かびあがらせたい。


*会 場:慶應義塾大学三田キャンパス 東館ホール
       https://www.keio.ac.jp/ja/maps/mita.html → キャンパスマップ【3】東館の8階です
*受講料:無料
*申 込:不要(直接会場にお越しください)