言語文化研究所公開講座の開催

2010年10月16日

2010年度言語文化研究所公開講座を下記の通り開催いたしました。

テーマ 天・神々・祖先:中国人の思想と信仰

中国思想・文化研究の近年の新たな展開を取り上げます。祭祀・信仰に焦点を当てて、儒教の祭祀、道教の神々の変容、儒教と西洋思想、儒教と風水という独自の切り口で気鋭の研究者にお話しいただきます。広く中国の思想・文化に関心を持つ方々の参加をお待しております。

10月16日(土)午後2時~5時

<講師> 小島毅(東京大学大学院准教授)
<演題> 淫祠をいかに駆除するか―儒教のパンテオンとそれを護持する努力について

儒教は単なる倫理道徳ではない。神々への祭祀をともなった「教」であった。最高神である天の「上帝」を頂点とする、祀られるべき神々の序列が教義上整備され、人間社会の皇帝と官僚機構がそれを管理し、つかさどった。しかし、実際に民間社会で祀られている神々とのあいだには緊張関係があり、本来祀られるべきでないと儒教側が判断するものは淫祠として排除された。この両者の緊張関係の構造について、宋代の事例をとりあげてお話し、日本で一般にもたれているであろう「儒教は宗教ではない」とする印象を訂正したい。

<講師> 二階堂善弘(関西大学文学部教授)
<演題> 中国の様々な神と信仰―明清期の発展を中心に

日本人にとってなじみのない道教という宗教について理解を深める。日本では道教と民間信仰の区別が曖昧であり、また仏教も日本と大きく異なる部分があることが知られていない。特に神々の信仰を中心に、道教と中国の仏教の特色について述べる

10月23日(土)午後2時~5時

<講師> 井川義次(筑波大学大学院教授)
<演題> 宋元明の鬼神論と祭祀、ならびにそれの欧語訳を通じたヨーロッパ知識人への影響

中国の宋代から明代にかけて、儒教においては人間の精神作用ならびにその死後の有り様についてさまざまな議論が展開された。ことに人間の霊の内実に関する「鬼神」論には思考類型として可能な限りの多彩なヴァリエーションが存在していた。そのうちには朱子を代表とする理気二元論説からの「気」の運動・屈伸説や、生者に影響を与える霊的実体としてとらえるもの、あるいは宇宙論的鬼神論など多様であった。こうした鬼神論議が盛行した明・清代に中国を訪れたイエズス会宣教師たちは、中国人信者とヨーロッパ人に向けて、中国の代表的思想たる儒教がキリスト教と抵触しないことを説明すべく努力した。彼らは四書五経等の中国古典の鬼神説を、有力な注釈に依存しつつ、キリスト教的霊魂観と対応するものと「論証」しようとしてきた。本講演ではその間の実情を、宣教師らによる儒教経典の訳文と、それに対応する漢文文献を照らし合わせて解読することを試みたい。

<講師> 水口拓寿(東京大学大学院助教)
<演題> 風水思想の発見・批判・改造――宋学は風水に何を求めたか

朱熹の語録『朱子語類』に、風水の見地から古都の地勢を評した発言が見えるが、彼を初めとする宋学の論客たちは、風水思想を必ずしも全否定しなかった一方、それを無批判に支持することもなかった。彼らは風水思想のどんな要素に価値を認め、どんな要素を拒絶したのか。そして風水思想をどう改造して、「正しい儒教文化」の中に組み込もうとしたのか。彼らの試行錯誤の軌跡を追いかけながら、儒教と風水の意外な関係史をお話しする。

司会 嶋尾稔(本塾言語文化研究所教授)

●会場 慶應義塾大学三田キャンパス北館ホール
http://www.keio.ac.jp/access.html 
●受講料:無料
●申 込:不要(直接会場にお越しください)