言語学コロキアム『束縛理論の新たなアプローチを探る』が開催されました

2013年12月19日

1213日・14日、東北学院大学非常勤講師の阿部潤先生をお迎えし、2部構成のセミナー形式で、言語学コロキアム「束縛理論の新たなアプローチを探る」が開催された。

 

 1部「照応関係を移動理論で捉える」では、照応関係に対する移動理論の基本的骨格とその経験的帰結の説明がなされ、上昇的関係にない照応関係は、いわゆる横向き移動 (sideward movement) によって捉えられること、また(操作詞移動がその操作詞を指し示す代名詞を飛び越えて移動できないという)強交差現象 (strong crossover phenomenon) は、移動に課せられる最小条件 (minimality condition) によって説明できること、などが示された。この分析では、発音されないproの移動が照応関係の確立に関わっており、pro移動が局所性条件に違反する場合、その移動が作り出す連鎖 (chain) の下側のメンバーを発音することで、その連鎖を救済できることが提案されている。この提案のもと、通常の代名詞の照応関係が一般に局所性条件に従わないことが説明された。

 

2部「日本語の空項を移動理論で捉える」では、日本語を例に、代名詞欠落現象 (pro-drop phenomenon) が、pro移動とそれに付随する救済手続きとの相互作用によって引き起こされることが示された。最も明快な例は、pro移動が何の局所性条件にも違反しないが故に救済手続きは適用されず、作り出された連鎖の下側のメンバーが発音されないままになっている例である。これが日本語では、埋め込み節の主語からすぐ上の節の主語及び目的語の位置にA移動したproによって具現化されることが主張された。また、日本語に観察される主語を跨ぐ照応関係に関しては、操作詞移動を介在したA移動が可能であるため、局所性条件の違反は回避され、作り出された連鎖の下側のメンバーが発音されないままであることが主張された。

 

 代名詞の照応関係を内的併合 (Internal Merge, 従来の用語ではMove) に還元する試みは大変刺激的であり、両日とも会場では多くの質問が出され、活発な議論が行われるなか、今後の課題についても理解を深めることができた。

 

 

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