言語学コロキアム『言語の語順と思考の順序:OS型言語からみた人間言語のデザイン』が開催されました

2014年3月17日

2月1日・2日、東北大学准教授の小泉政利先生をお迎えし、2部構成のセミナー形式で、言語学コロキアム「言語の語順と思考の順序:OS型言語からみた人間言語のデザイン」が開催された。

第1部「実験統語論への招待」では,実験統語論への導入が行われた。実験を用いた言語研究には大きく分けて、(1)言語処理機構の性質を探るものと、(2)言語理論の仮説を検証するものとがあるが、(1)のカテゴリーの研究として、文法機能、意味役割、格助詞、付加詞などの配列順序が文処理負荷にどのような影響を与えるかを調べた研究が紹介され、(2)のカテゴリーの研究として、動詞句内主語仮説、統語構造のカートグラフィー、痕跡の心理的実在性、などを巡る研究事例が紹介され、実験が言語研究にどのように貢献しうるかが示された。

第2部「SO語順選好は普遍的か?」では、VOS語順を基本語順にもつカクチケル語(マヤ諸語)の実験データを手掛かりに、「SO語順選好」(主語が目的語に先行する語順が好まれる傾向)の普遍性について次のような考察が提示された。
 
・人間が非言語的に事象を把握する際には、概念接近可能性などの要因により、「行為者」の処理が「対象」の処理に先行する。
・文産出においては、非言語的思考が逐次的に言語処理の入力になるので、主語が目的語に先行する語順(SO語順=SOV, SVO, VOS)を基本語順に持つ言語(SO言語)だけでなく、目的語が主語に先行する語順(OS語順=OSV, OVS, VOS)を基本語順に持つ言語(OS言語)の文産出においても、「行為者・対象」順序に対応するSO語順の使用頻度が高くなる。
・一方、文理解の際の語順による処理負荷の違いはおもに統語表象の複雑さに起因するため、統語的基本語順の文がそれ以外の語順の文よりも処理負荷が低くなる。
・従って、SO言語では、産出頻度の高い語順と理解の際の処理負荷が低い語順がともにSO語順になり、一致する。
・しかし、OS言語ではこの両者が一致せず、処理負荷が高いSO語順が高頻度で用いられる。

カクチケル語の実験データに基づく「SO語順選好」の普遍性に関する考察は大変刺激的であり、会場では多くの質問が出され、活発な議論が行われた。

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