言語学コロキアム「理論言語学に基づき手話言語研究を概観する」が開催されました

2014年4月 8日

3月25日・26日の2日間、東館6階G-SEC labにおいて慶應言語学コロキアム「理論言語学に基づき手話言語研究を概観する」が開催された。本企画の目的は音声言語の理論的研究を専門とする研究者や大学院生を対象に、理論言語学(特に生成文法)の枠組みを意識しながら手話言語の分析に関わる基本的な考え方を提示し、各講師が取り組んでいる研究を交えて近年の研究動向と課題を論じることであった。各日とも「手話使用者のバックグラウンド」「手話データ収集における倫理的配慮」に関する情報提供も行われた。

1日目(25日)には松岡和美(本学経済学部教授)が「手話言語の音韻と形態」と題して、手話音韻論と手話形態論の研究史や基本概念および代表的な研究成果を概説し、音声言語との共通点・相違点として注目されている現象と研究成果を提示した。聴衆からは手話言語のCLの性質について特に強い関心が寄せられた。前半の内容を踏まえて、後半では川崎典子氏(東京女子大学教授)が、「手話言語はagreeするか」という演題で手話言語の一致現象を取り上げ、音声言語のself-ascriptionが関わる現象や手話言語の非手指標識の重要性を手掛りに、認知的・音韻的・語用論的要因の関わる最適性理論による分析を示し、手話言語と音声言語の違いが両者に共通する文の表出形決定のメカニズムから導かれる可能性を示唆した。
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2日目(26日)には、松岡が「手話言語の統語と意味」という演題でYes-No疑問文とWh疑問文の基本パターン、条件節や副詞句を導く非手指表現(non-manuals)、ロールシフトなど統語構造と意味の関わる現象を例に、手話言語の「同時性(simultaneity)」の重要性を確認した。また意味論研究の例として、強意詞の口形に見られる極性(polarity)についての共同研究の成果や指さしの空間利用など、更なる研究の進展が期待される言語事実を紹介した。後半では内堀朝子氏(日本大学准教授)が「Syntactic approaches to wh-sentences in sign languages」という演題で、まずアメリカ手話(ASL)・ブラジル手話(LSB)・イタリア手話(LIS)のwh構文の先行研究と理論的に重要な論点を概観し、その上で、手話言語一般に見られるwh構文の特徴として、wh要素が文末に現われたり、また、文末と元位置もしくは文頭に二重に現われたりする点に着目し、Uchibori and Matsuoka (2013)による、手指表現が量化子であり、非手指表現がwh素性を標示することが日本手話(JSL)のwh要素の形態的特性であるとするSplit movement分析を提示した。

年度末の平日2日間の開催にもかかわらず、研究者・学生・大学院生など、各日30名近い参加があった。手話の基本的な性質に関する考察や、理論的帰結に関するコメントなど、2日間を通して活発な議論が行われた。(文責・松岡和美)

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